「移民が治安を悪化させる」──このような主張を耳にしたことがある方も多いでしょう。しかし、移民と犯罪率の関係については、多くの誤解が存在しています。科学的な研究をもとに、移民が治安に与える影響について、データを交えながら解説します。
1. 移民と犯罪率の関連性は？
(1) 移民による犯罪率の傾向
研究によると、移民全体の犯罪率は現地住民の犯罪率より低いことが多いです。移民は法を守ることで、就労や生活の安定を確保しようとする傾向が強いからです。
- データ: アメリカにおける調査では、移民の犯罪率は現地住民よりも40～50%低いとされています【Light & Miller, 2018】。
(2) 移民世代ごとの違い
第一世代の移民（直接移住した人々）は犯罪率が低い傾向がありますが、第二世代（移民の子供世代）では犯罪率が現地住民と同等またはやや高くなることが確認されています。
- 理由: 第二世代は現地文化に適応する過程で、社会的プレッシャーや経済的困難に直面する場合があるためです。
2. 移民が治安を改善するケースもある？
(1) 移民によるコミュニティ活性化
移民が増加することで、地域経済が活性化し、犯罪が減少するケースもあります。例えば、移民が多い地域では、小規模ビジネスの開設が増え、雇用が創出されるため、犯罪抑制効果が期待されます。
- データ: アメリカの都市データでは、移民が全人口の10%増加すると、暴力犯罪率が約3%減少するという結果があります【Martinez & Lee, 2000】。
(2) 移民労働者と社会の安定
移民労働者が多い地域では、労働力の充実による経済的安定が治安向上につながることもあります。
- 事例: ドイツでは、移民が工場やサービス業で労働力を提供することで、地域の社会安定に寄与していると報告されています。
3. 移民と特定の犯罪に関するデータ
(1) 暴力犯罪
移民が暴力犯罪に関与する割合は、統計的に現地住民よりも低い傾向があります。
- データ: イギリスでは、移民が全体の人口の約15%を占める一方で、暴力犯罪の加害者に占める割合は9%に過ぎないことが確認されています【Bell et al., 2013】。
(2) 財産犯罪
一部の移民は経済的困難から財産犯罪に関与するリスクがありますが、これは移民全体ではなく、特定の社会的・経済的状況にあるグループに限られます。
- 例: 低所得の移民層では、犯罪に関与する確率が約1.2倍高いとする調査もあります。ただし、これは経済状況に起因するもので、移民という属性自体が原因ではありません【Freeman, 2010】。
4. 移民政策と治安の関係
移民政策が治安に与える影響も重要なポイントです。厳格な移民規制は、移民の地下経済活動や非合法滞在を増やし、逆に治安を悪化させるリスクを高める可能性があります。
- 調査結果: 寛容な移民政策を持つ国では、移民の犯罪率が約30%低いというデータもあります【Hagan et al., 2011】。
結論：移民は治安を脅かすのか？
データが示すのは、移民そのものが治安を悪化させるわけではないということです。むしろ、移民が地域経済を活性化させ、犯罪率を抑制するケースも多々あります。一方で、移民政策や経済状況によって犯罪に関与するリスクが変わるため、政策の設計と社会的支援が重要です。誤解に惑わされず、データに基づいて冷静に判断することが求められます。
