1. 「犯罪者の頭蓋骨は違う」という説の真偽
「犯罪者の頭蓋骨は普通の人と異なる」という考えは、19世紀の犯罪学者チェーザレ・ロンブローゾが提唱したものです。彼は、犯罪者は特定の頭蓋骨の形をしているとし、それが生まれつきの犯罪傾向を示すと主張しました。しかし、この説には科学的根拠があるのでしょうか?
現代の研究では、頭蓋骨の形と犯罪行動には直接的な関連性がないとされています。しかし、特定の頭蓋骨の異常や損傷が、脳機能に影響を与えることで暴力的な行動を引き起こす可能性は指摘されています【Licata, 2018】。
2. 頭蓋骨の異常と精神疾患の関係
研究によると、頭蓋骨の異常が精神疾患と関連している可能性が示されています。たとえば、てんかん患者の頭蓋骨異常が発見されたケースでは、脳の特定部位に影響を及ぼしていることがわかっています【Licata, 2018】。
また、前頭葉の発達が未熟な人は、衝動的な行動を取りやすいという研究結果もあります。前頭葉は意思決定や自己制御を司る部分であり、萎縮や異常があると、暴力的な行動を抑えにくくなるとされています【Leon-Carrion & Ramos, 2003】。
3. 幼少期の頭部外傷と犯罪行動の関係
ある研究では、幼少期に頭部外傷を負った人は、将来的に犯罪を犯す確率が高いとされています。実際、暴力犯罪を犯した受刑者の約60%が、過去に何らかの頭部外傷を経験していたというデータもあります【Leon-Carrion & Ramos, 2003】。
これは、頭部外傷によって脳の機能が低下し、自己抑制や判断力に悪影響を及ぼすためと考えられています。
4. 遺伝と環境の影響
犯罪行動には、遺伝と環境の両方が関係していることが分かっています。例えば、特定の遺伝子(MAOA遺伝子変異など)は、攻撃性の増加と関連していることが示されています【Gall, 2021】。
しかし、環境要因も大きく影響します。低所得層の家庭で育った子どもは、犯罪に手を染める確率が高いという研究もあり、これは教育機会の不足や、犯罪を容認する環境にいることが影響しているとされています。
5. 「頭蓋骨で犯罪者を判別する」危険性
19世紀には、骨相学(phrenology)と呼ばれる学説が広まり、「頭蓋骨の形で性格や知能がわかる」と信じられていました。しかし、この考えは現代では疑似科学とされ、科学的な根拠がないことが証明されています【Berveling, 2020】。
見た目だけで犯罪傾向を判断することは、偏見を助長し、不当な差別につながる可能性があります。
6. 現代の犯罪捜査における科学的アプローチ
現在の犯罪捜査では、頭蓋骨の形ではなく、AIやビッグデータ分析による犯罪予測が活用されています。たとえば、監視カメラの映像解析によって不審な行動を検知する技術が進化しており、これにより犯罪の未然防止が可能になってきています【Jayaprakash et al., 2001】。
また、脳波分析や心理学的アプローチを取り入れた捜査手法も研究されています。
7. まとめ:頭蓋骨と犯罪率の関係は否定されている
結論として、頭蓋骨の形と犯罪率には科学的な関連性がないことが、現代の研究で明らかになっています。一方で、幼少期の頭部外傷や脳機能の異常が犯罪行動と関連する可能性は示されています。
犯罪行動の要因を「生まれつきのもの」と決めつけるのではなく、教育や社会環境の改善に目を向けることが、より有効な犯罪防止策となるでしょう。